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リーディング短編集#1

僻みひなたの音楽性の出発点

僻みひなた氏

しあわせ学級崩壊」は、ライブ演奏による大音量の音楽の上に、俳優がマイクを用いてセリフを乗せることを特徴とした劇団だ。その脚本・演出を務める僻みひなたは、劇中曲制作も行っている。そこで今回は、演劇ではなく音楽を切り口として、僻みひなたの作品づくりやそれにまつわる経験について語ってもらった。

僻みひなた(しあわせ学級崩壊) 撮影:yoshikino

 高校一年生のときにバンドを始めました。周りはコピーバンドがほとんどでしたが、何か人と違うことがやりたくてオリジナル曲をつくり始めました。その時に曲をつくったり歌詞を書いたりしたのが、自分の創作の原点だと思います。

 当時よく聴いていたのは邦楽ロックでした。その点においても、人と違う自分をアピールしたかったというか、八十八ヶ所巡礼、オワリカラ、SuiseiNoboAzなど、王道からは少しだけ外れたような、あまり周りの人が知らない音楽を聴くことが好きでした。

当時は動画サイトなどで音楽を漁る文化がそこまで盛んでなかったこともあり、比較的マイナー寄りの音楽は、自分のような片田舎の高校生にはなかなか届いてこなかった。だから、東京にはもっと自分の知らない多様な音楽が溢れているんだろうな、と漠然とした期待を抱いていました。

 音楽をやるつもりで東京の大学に入学しました。世間知らずの田舎者だったので、まだ見ぬ世界に過剰なあこがれを抱いていた節があり、だから、バンドサークルの新歓で聴いたのが全てコピーバンドだったことにショックを受けました。当時はかなりイタい方向に尖ってて、誰にもつくれないものを作るのが正義で、誰にでもつくれるものを作るのはダサいことだと思っていました(もちろん今はそんなことは思っていないです)。だから、そこで先輩たちと温度差を感じてしまったというか。自分のやりたいことはここにはない、と思いました。

 高校時代にお付き合いしていた方が演劇部だったこともあり、もともと演劇には興味、あこがれがありました。バンド新歓の失意の中、ふと思い立って演劇サークルの新歓を覗いてみると、そこには自分の求めていた、「まだ見ぬ世界」がありました。脚本を自分たちで書く、というのもそうですし、全てのセクションの仕事が大変クリエイティブに映って、過剰に感動してしまったというか。あと、サークルには結構個性的な人が多くて、よくない言い方をすると、ちょっと浮いてるような人が多かった。それもまた、自分の求めている空気に近かったというのもあります。そうして、半ば衝動的に演劇サークルに入団しました。

 人と違うものをつくりたいという思いはずっとありましたから、ゆくゆくは脚本・演出をしようと決めていました。結局演劇の世界にいても、とにかく人と違う自分をアピールすることに必死で。自分にとって、そういった武器になるものはやっぱり音楽でした。自分は周りのみんなより音楽を知っている、というのが心の拠り所になっていました。

 二年生の夏、初めて自分のオリジナル作品をつくったんですが、その時からすでに、全編にわたって音楽を使っていました。当時見ていた演劇作品の影響もかなり受けていて、その一つが、宗教劇団ピャー!!『リア王とジプシー』です。大きな音で音楽を流しながらラップ(のようなもの)をして踊り狂うというシーンがあって、いま思えば、これがしあわせ学級崩壊の原点になっているのかもしれません。

 当時はEDMというワードも知らなかったんですけど、初めて自分で作品をつくるにあたりどんな音楽を使おうかと考えているうちに、自然と四つ打ち音楽に行き着きました。ビートが単調なので、「うるさくて派手なのに邪魔にならず、言葉と融合しやすい」ということが、やりたいことに合っていた。

 昔、ニコニコ動画でファミマの入店音をEDM風にアレンジしたものが流行っていたんですが、ふと、あれが演劇に使えるんじゃないかと思いました。そこで、KORGのelectribeを導入して、演劇の中で遊びながら段々と打ち込みやリアルタイムパフォーマンスを覚えていった感じですね。そして、2019年上演の『卒業制作』で初めてオリジナル曲をつくった。 

 いまでは、作劇の参考やリファレンスのためにしか音楽を聴かなくなってしまったので、あまりEDM以外の音楽を開拓することがなくなりました。なので、今後どのような音楽をつくって作劇したいのかと問われると悩んでしまうのですが、ひとまずより開かれた音楽性を意識して、現在上演しているリーディング短編集では、テンポを落としてEDMっぽくない曲をつくりました。そうして、音楽と演劇の関わりの新しい形を模索しています。

 あとは、やっぱりバンドへの憧れはずっとありますね。うしろにバンドを携えて、生演奏で演劇をやる。そういった形態はいつかやってみたいなあと思っています。

(インタビュー・構成・文 田中健介)

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