『ハムレット』
「余計なお世話です」
第五回『古典嫌いのための処方箋』
綾門優季氏
ハムレットを取り囲むのは誰か
しあわせ学級崩壊『ハムレット』(複数の会場を渡り歩いている公演だが、私が観たのはBASS ON TOP 中野店でのスタジオ公演)(※1)に立ち会って、観劇前の冷静さを保ち続けるのは非常に難しかった。暴力的な高揚感。客席と舞台は全く隔てられておらず、俳優が観客とぶつかりそうなほどの近距離でたえず行き交う(いや実際に1度上演中にハムレットを演じる田中健介と私は身体がかすめる程度にぶつかった、それはぶつぶつ意味のわからない独り言を言う危ないおじさんが、真夜中の渋谷や新宿の道でいきなりぶつかってくるような恐怖を一瞬で感じさせた)。何より空間を圧する爆音のEDMは、半ば強制的に芝居の盛り上がりと観客の感情の盛り上がりを同期させる。いま目の前で起こっている惨劇が、偶然道端で洒落にならない喧嘩に遭遇し、大量の野次馬の輪に逃れきれず巻き込まれてしまったかのような、切迫感のある現実として私に接近して来る。
(2019/8執筆)